人類が空を飛び始めてからおよそ100年、その歴史の中で様々な航空事故が起こってきました。飛行機の事故は悲惨な結末になることが多いです。墜落すれば命が助かる可能性は極めて低いからです。乗員乗客全員が亡くなることも珍しくありません。
墜落事故により犠牲者が出てしまうのは悲しいことですが、事故が起きるからこそ問題点や改善点が見つかり、それが今後の空の旅の安全へとつながっていきます。事故が起こるたびに、再発防止のための技術やルールは進化していくと言ってもいいでしょう。
ここでは、「本当にあった恐ろしい航空事故」をテーマにこれまでの事故の中でも特に恐ろしい原因、またはひどい原因で起きた事故を紹介していきます。そして事故をきっかけに航空業界がどう変わったのかも簡単にですが説明していきます。
今回紹介するのは「ニューデリー空中衝突事故」です。
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ニューデリー空中衝突事故
概要
日付:1996年11月12日
乗員乗客:312(サウジアラビア航空763便)、37(カザフスタン航空1907便)
死亡者数:349(全員)
生存者数:0
1996年11月12日の18時32分、サウジアラビア航空763便はインドのインディラ・ガンディー国際空港を離陸しました。この763便には乗員23名と乗客289名の合計312名が搭乗していました。763便は離陸後、管制官より高度1万4千フィートまでの上昇を指示され、上昇後は高度1万4千フィートでの待機を指示されました。
一方、同じ頃、カザフスタン航空1907便はインディラ・ガンディー国際空港への着陸に向けて降下を始めていました。1907便には乗員10名と乗客27名の合計37名が搭乗していました。管制官は離陸して高度1万4千フィートにいる763便(出発機)の頭上を1907便(到着機)が超えてから、763便を上昇させるつもりでした。そのため管制官は1907便に763便よりも1,000フィート上空の高度1万5千フィートを維持するよう指示しました。
しかし、1万5千フィートの維持を指示されていた1907便は1万5千フィートからさらに降下を始めました。そして1万4千フィートを航空中、同じ高度にいた763便と空中衝突をしたのです。
どちらの飛行機も乗員乗客全員が死亡、生存者はいませんでした。史上最悪の空中衝突事故です。
原因
・コミュニケーション不足と英語能力の不足
カザフスタン航空1907便は指示されていた高度150(15,000フィート)ではなく高度140(14,000)フィートまで下降し飛んでいました。1907便には機長と副操縦士、そして通信士がいましたが、管制官とのやり取りは通信士が行っていました。機長と副操縦士は英語が不得意で管制官と通信士のやり取りの「高度140に763便がいるので、高度150まで上昇せよ」という指示を「高度150に763便がいるので、高度140まで下降せよ」と勘違いしてしまったのです。通信士は英語を正しく理解できていましたが、すぐに翻訳して機長らに伝えるということはしていませんでした。その結果、機長らは相手と自分の高度を勘違いし763便がいる高度140まで降下をしてしまったのです。衝突の直前に間違った高度を飛んでいることに通信士が気づきましたが遅すぎました。
事故以降の改善
・管制官が使っていた時代遅れのシステムの刷新
この事故が起きた際に管制官が使っていた1次レーダーは機体の位置だけが把握できるもので、高度がわかりませんでした。高度はパイロットからの報告に頼っていたのです。しかしこの事故ではパイロットからの高度報告が間違っていました。もし正しい高度を管制官が知っていれば指示によりこの事故は回避できたでしょう。
この事故から2年後、システムが刷新され、機体の高度が管制官からも確認できるようになりました。
・回廊の解放
インディラ・ガンディー国際空港では商業機に割り当てられていた回廊が1本だけだったために過密していました。この事故をきっかけに他の回廊も商業機に開放されました。